『イドラ ファンタシースターサーガ』のエピソード1期間の振り返り
新型コロナウイルスの影響により、エピソード2の配信が延期となった『イドラ ファンタシースターサーガ』。
エピソード2の配信延期、つまり新しいゲーム内容の追加まで猶予ができたので、今一度、本作の内容について触れておきたい。
まずはゲーム性。
本作の特徴は何といってもロウとカオスのそれぞれ4人、計8人編成のパーティーによるバトルと運命分岐によるキャラクターの勢力変更が最大のウリだろう。
ロウ、カオス、ニュートラルの三勢力が存在し、ロウのパーティーとカオスのパーティーをどう編成するか、どちらにも編成できるニュートラルのキャラクターをどちらに配するか、といったパーティー編成のセンスが問われる訳だが、このシステムは他所のスマートフォン向けゲームではあまり見かけない、本作の個性と言って差し支えない。
ロウのパーティーとカオスのパーティーを切り替えて都度連携させながら戦う…といった戦術的要素も加わる訳だ。
一作目の時点で当時あまり一般的ではなかった3Dダンジョンを導入し、『時の継承者 ファンタシースターIII』ではあの有名な『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』に先んじて結婚システムとマルチエンディングを実装、『ファンタシースターオンライン』で家庭用ゲーム機向けとしては異例のオンラインゲーム化といった、「ファンタシースターシリーズが導入する先進的なシステム」に相当するのがこのパーティー切り替えバトルだろう。
ロウとカオスというテーマは正直言って使い古されている気はする。
アトラスの『女神転生』シリーズ(その中でも主に『真・女神転生』シリーズ)を筆頭に、ロウとカオスの対立というテーマは様々なゲーム作品で取り上げられてきた。
しかし、ゲームの根幹であるバトルシステムにここまで直接的にこのテーマを入れ込んだ作品はそれほど多くはない。
本作は巷では、某グランドオーダーのパクリだなんだと言われてはいるが、このシステムは某作品には無い個性と言えるだろう(某作品はシリーズを通して秩序、中立、混沌といった勢力属性はあるが、バトルシステムの根幹に影響するものではない)。
そして、運命分岐は本作の象徴ともいえるキャラクターの育成手段の一つ。
キャラクターの絆が特定のレベルまで達し、そのキャラクターの列伝(キャラクターごとに展開されるサブストーリー)をクリアすると運命分岐が可能となる。
運命分岐前のゾラというキャラクター。
「開戦の舞」と「スピリチュアルダンス」が使用できる。
こちらはロウに運命分岐したゾラ。
「スピリチュアルダンス」が「アウェイクニングダンス」に強化されている。
一方、カオスに分岐したゾラ。
「スピリチュアルダンス」はそのままだが、「開戦の舞」が「強靭の舞」に強化されている。
このように、運命分岐ごとにキャラクターのビジュアルだけでなくスキルの性能や勢力も変化する。
また、運命分岐ごとに列伝のシナリオが用意されており、キャラクターのビジュアルや性能、勢力だけでなく、見たいシナリオに応じて運命分岐させるという選択肢もある。
例に挙げたゾラでは、カオスに分岐するのが本来のシナリオであり、ロウの分岐は「もしもゾラに心境の変化があったとしたら」という本来のストーリーとは異なるシナリオを描いている。
このように、キャラクターのシナリオを用意したり、目に見える変化があるシステムは、キャラクターの育成に充実感を持たせるという点では一役買っていると言えるだろう。
属性値についても触れておきたい。
そもそも、ファンタシースターシリーズにおける「属性値」とは、『ファンタシースターオンライン』において武器アイテムに付与される種族属性値(特定の種族に対する
ダメージ増加)とHit属性値(数値の分だけ命中力上昇)がルーツであり、それを基として『ファンタシースターユニバース』で炎、氷、雷、土、光、闇の6属性に数値によって効果が増減するシステムを実装した。
次シリーズ作の『ファンタシースターオンライン2』では属性システムが改善されて異なる仕様となったが、「属性の数値が高いほど与ダメージが上昇する」という点は継承されており、これがファンタシースターにおける属性値の形となりつつある。
本作における属性値はというと、装備品に付与されている効果ではなく、戦闘中に増減するステータスと化している。
具体的には、火属性のキャラクターが何か行動を起こすと火の属性値が1上がるとか、スキルの発動条件として属性値がいくつ必要だとか、エレメンタルブラスト(いわゆる必殺技)でいくつ消費するといった具合である。
属性値の増減に長けたクラスが存在したり、スキルやエレメンタルブラストの発動に必要な属性値が低いキャラクターなども存在する。
属性値を上手く上げて、効率良くスキルやエレメンタルブラストを発動することがバトルを有利に進める手段の一つである。
以上のバトルシステムは非常に好印象で、他所の同ジャンルゲームと差別化を図っている点は評価したい。
では、そろそろ世界観やシナリオについて触れていきたい。
本作はセガが擁するRPG、『ファンタシースター』シリーズの30周年を記念してサービスが開始された記念作品なのだが、ファンタシースターとしての世界観は持ち合わせているのか。
結論から言うと、「ファンタシースターらしさは持ち合わせているが不十分」と言わざるを得ない。
これがどういうことかは順を追って説明したい。
まず、本作のファンタシースターらしさとは何か。
私が思うに、それは世界観そのものは中世風ファンタジーでありながら、明らかに異物的なテクノロジーや文明が存在する点にあると考える。
機械の身体を持つマキナという種族が存在したり、対人戦闘で実用化されているほどの銃が存在するなど、中世風ファンタジーには不釣り合いな文明レベルを有しているのは、ファンタシースターオンライン以降の純SFな作品ではなく、ファーストシリーズ、通称『PS四部作』に近しいものがある。
また、本作は明らかに『ファンタシースターオンライン2』との世界観的な繋がりがある。
作中で「神人」と呼ばれている存在がPSO2の「アークス」であることが示唆されており、共通のテクノロジーが存在する。
アークスのキャンプシップがヴァンドールで「方舟」として残っているということは、アークスがヴァンドールに降り立ったことを意味している。
一見するとファンサービス旺盛のように感じるが、イドラにおいてファンサービス的オマージュがあるのはPSO2だけである。
ファンタシースターシリーズから登場しているキャラクターはクーナ、ジェネ、マトイ、リサ…と、PSO2の面々である。
また、スキルやエレメンタルブラストとしてPSO2に登場しているフォトンアーツやテクニック、スキルは登場するが、PSO2より前のシリーズ作品のフォトンアーツやテクニック、スキルは登場しない。
シリーズファンにわかりやすく説明するなら、PSO2に登場している「オーバーエンド」はイドラにも登場するが、PSO2未登場の「ソニックレイド」や「グランドクラッシャー」は登場しない。
ファンタシースターサーガなのだから、PSO2以外の作品もオマージュしたら良いのではないか、と考えずにはいられない。
また、設定にも不明点がある。
ロウとカオスがパーティーを組むと力を相殺しあって力を発揮できないという設定。
これは論理的説明が困難である。
「何故相殺されるのか」はファンタジーであるから考えたところで意味が無いとして、「どのようにして相殺されるのか」はたとえファンタジーであっても論理的な解釈が必要だ。
単に「星石と誓痕は相殺しあう性質がある」というだけなら問題は無い。
ただし、これが「同じパーティーだと相殺しあう」では仕組みが意味不明になってしまうのだ。
例えば、「近付くと相殺しあう」のであれば、ロウとカオスがどのようにして戦闘し合っているのか説明がつかなくなってしまうし、「同じパーティーだと相殺しあう」のであれば、どのようにしてパーティーと区別され、どのようにして相殺効果が発生するのか説明がつかない。
ジャスパーの「なんでそうなるかは俺にもわかんねえんだけどな……」はシナリオを読んだ側も全く同じ意見になるのではないか。
テレプールの仕組みも意味不明だ。
「仲間たちを強く想うことで、お前を仲間たちのもとへ運んでくれるだろう。」
……いやいやいや、どういう仕組みなんですかそれ。
事前の地点登録の必要がないことはPSO2で描写されていたものの、強い想いに応じて転送するという理屈は、いくらなんでも飛躍し過ぎだろう。
強い想いに応じて転送先を決めるというのは、転送装置として不正確極まりない結果を招きかねない。
いくらファンタジーだとしても、このシーンはSFなのだから、もう少し理屈の通った説明にしたほうが良かったのではないか。
まだまだ語りたいことはあるが、これ以上は重大なネタバレを避けられない為、ここまでとさせて頂きたい。
世界観やシナリオに関しては、どうしても厳しく意見しがちだが、何だかんだでイドラのシナリオは好印象だ。
エピソード2ではどんな冒険が待っているのか、今後に期待したい。